日本の食品安全について
法体系
日本は法治国家であり、憲法を基に各種法令が定められています。食品安全に関する法令違反の話は収まることはなく、むしろ規制が強化されることが多々あります。逆に考えると、規制(明記)されていないから、と商売すると食品衛生法に違反することが多いため、明記するために規制強化していると考えられます。
では実際にどのような法令があるのでしょうか。
まずは食品に関する内容は憲法のどこにあるのか。
日本国憲法第25条には社会権の一つである生存権について記載されています。
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
この2項が定められています。
この条文を基に、食品関連の法律がいくつか作られています。
戦後の混乱から食糧管理法、飲食に起因する危害から食品衛生法、規格や製造方法を統一するためのJAS法など、一部戦前から引き継がれる法理念もあるようです。
それらを統括して一つの法律があるのですが、それが食品安全基本法です。
食品安全基本法
食品安全基本法では、具体的な内容ではなく基本概念が述べられ、国、自治体、事業者、消費者のそれぞれがどのような役割が必要か、書かれています。
特に消費者に於いては、知識と理解を深め、意見を表明するように努めることを明記されております。
つまり、意見を表明するのはまず初めに知識と理解を深めてから、と解釈されます。
当然声の大きい人ほど意見を表明すれば賛同する人が多く、国や自治体、事業者へ声が届きやすいとは思いますが、その人に知識と理解が本当にあるのかどうかは注視する必要があります。
食品衛生法
食品衛生法は戦前から存在する法律で、かなり歴史のある法律ですが、根本はほとんど変わっておりません。
対象物は医薬品等を除いたすべての飲食物で、人が口にする可能性のあるもの(幼児用玩具)も対象になります。
違反対象としては、人が口にして健康上の危害が生じる、あるいはその恐れのある可能性があるだけでも対象となります。
刑事事件では疑わしきは罰せずですが、こちらは疑わしければすべてその対象である、という法律です。
つまり、因果関係が成立していなくても、そのように考えられる可能性があるだけで罰せられます。
JAS法
正式名称は農林物資の規格化等に関する法律といわれますが、食品表示法制定以前は農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律と呼ばれておりました。
安全ではなく、規格を制定するための法律になります。
戦後の混乱期に質の悪い製品が蔓延る中、この法律により規格が統一された(規格基準をクリアした)ものとしてJASマークが付されて販売されることになりました。今日ではあまり意識していないかもしれませんが、醤油やソーセージなど、加工度の高い食品の品質を規格しています。
食品表示法
こちらは2013年に制定されたので記憶に新しい方も多いかと思われます。
上記食品衛生法、JAS法にて容器包装に包装されて販売される食品に対する表示義務をまとめたものになります。
食品衛生法からは安全にかかわる部分、JAS法では規格にかかわる部分が抜粋され、また新しく栄養成分表示についても追加されるようになりました。
健康増進法
こちらは栄養成分表示に関わる内容になりますが、内容としては国民に健康を意識させ、健康維持を国民に義務付けるものとなります。
最近話題でいうと、受動喫煙防止についてはこちらの法律が絡んでいます。
食品で言うと、特別用途食品の制度が対象になります。(表示に関しては食品表示法にまとめられている)
HACCP
少し業界に明るい方であればこの言葉はご存じでしょう。以前は法律ではありませんでしたが、今後はこの考え方に沿ったやり方で、食品製造しなければならなくなりました。つまり、食品衛生法にこの内容が組み込まれました。
これはHazard Analysis and Critical Control Pointという英語の頭文字をとったもので、日本語訳にすると危害要因分析と重要管理点といったところでしょうか。
Hazard(一部ゲーマーには親しみのある言葉ですが)に対してきちんとAnalysis(分析)をし、Critical(重要、重大)なControl(管理)するPoint(箇所)を整備監視しましょう、という内容です。
一般に完成した製品が安全かどうかは製品を直接検査すればわかります。
しかし、消費者、特にこの制度ができる背景となった宇宙空間では検査後のものを摂取するには時間が経ちすぎているし、そもそも検査後に判定がでるまで時間が必要で、その間に腐ってしまう可能性があります。
つまり、安全を確保するには完成した製品から検査するのでは遅すぎる、という観点から、安全でなくなった原因は何で、それはどういったところから由来するものか、どうすれば排除できるのかを考え、それら安全でなくなった原因をすべて排除できたと証明することで、製品は安全なものだと見做す考え方です。
例として、ここに包装されたローストビーフがあるとします。
将来は宇宙空間でローストビーフを楽しみたいですよね。
でも、そのためには宇宙空間で調理はできません。
調理するのは地上です。
地上から宇宙空間までの運搬には時間がかかります。
包装しているので汚れ、雑菌、病原菌等の付着は考えにくいです。
では、包装された内側ではどうでしょう。
一般にローストビーフは水分活性値(Aw値)が0.95+で非常に高いです。
これは密閉した空間で湿度が95%以上であるという値です。
密閉していたとしても、中にすでに病源微生物が混入していると増殖する恐れがあります。
真空パックしていても、酸素が不要な病原微生物は多種います。
微生物の活動には水分、養分、温度の要素が必要であるといわれています。
ローストビーフは水分、養分は十分に存在するので、残りの温度管理が重要となります。
運搬時に冷凍しておれば解凍後すぐであれば増殖しないので問題はないでしょう。
しかし、冷凍では微生物は死滅しないため、そもそも健康被害の出ない程度に数を減らす(殺菌する)必要があります。
では、殺菌するには何℃でどのくらいの時間をかければよいのでしょう。
また、牛肉にはどのような菌が付着しているのでしょうか。
健康被害とは、病原微生物由来のものだけなのでしょうか。
製造中に変な化学薬品がかかったり、ナイフの破損したものが肉片中に入っていたりしないでしょうか。
そういった内容を突き詰めて考えていくのがAnalysisです。
そして、殺菌するには何℃何時間と判明すれば、今度は実際のローストビーフがどのように調理すればそれをクリアできるのか、モニタリングが必要になります。
これがControl Pointです。その最も重要な(Critical)点がCCPです。
ハザード分析(HA)をし、さらに製造工程でモニタリングをする(CCP)ことがHACCPの基本的な考え方となります。
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